
『教育行政・学校・研究・AI——4つの領域に取り組んできて見えた、本当に必要なものとは?』
みなさん、こんにちは。安里三矢子です。
前回は、「その問いは、本当に自分がワクワクするものですか?」というテーマで、自分自身の内側から湧き上がる”Why”を見つけることの大切さについてお話ししました。
コラム第3弾となる今回は、私がこれまで歩んできたキャリアの道のりについてお話しさせてください。
そして、あちこちの領域に首を突っ込み、迷いながら越境し続けたからこそ見えてきた「教育に本当に必要なもの」について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
第1章:学校、研究、行政、AI。迷いながら越境した日々
私はこれまで、中学校の英語教師という枠組みを超えて、さまざまな領域で手探りの挑戦を続けてきました。
学校現場では、生徒が主体的に学ぶ「探究型学習」のカリキュラムを一から立ち上げるべく奔走しました。そして現場での経験をさらに深めるため、琉球大学の教職大学院へ進学。そこではOECDが提唱する「エージェンシー(主体的に変革を起こす力)」など、教育の最前線の「研究(理論)」と実践の往還に努めました。
さらに、現場の教員という立場から視点を広げ、那覇市教育委員会の指導主事として「教育行政」というマクロな視点から仕組みづくりにも携わりました。
近年では、生徒の学びを可視化する「デジタルポートフォリオ」の構築をはじめ、英語科の授業における「生成AI」の活用、さらにはICTツールを用いた授業展開や校務改善など、AIやテクノロジーをいかに教育現場の最前線に役立てるかという実践にも尽力してきました。
現場(ミクロ)、行政(マクロ)、研究(理論)、テクノロジー(現場での活用)。
一見するとそれぞれ異なる領域に見えますが、
私にとっては「どうすれば子どもたちの目の輝きを引き出せるのか?」という一つの答えを探し求める、果てしなく続く探求の道のりでした。
第2章:4つの領域で見えた「本当に必要なもの」とは?
これら4つの領域を行き来する「越境キャリア」は、多くの課題と向き合う連続でした。
そして、この4つをぐるぐると巡ってきたからこそ、確信を持って言えることがあります。
それは、どんなに最先端の「理論」を学び、どんなに完璧な「制度(行政)」を作り、
どんなに便利な「AI(テクノロジー)」を学校現場に導入しても、それらが真に活きるためには、ある「一つの大切な要素」が不可欠だということです。
私たち大人が満たすべき要素とは何だと思いますか?
「それを使う大人(教師・行政・地域社会)自身が、子どもと同様に『問い』を起点に学習し続ける姿勢」こそが鍵となります。
例えば、国や学術界が提唱する「新しい教育理論」も、教育委員会や学校が整える「新しいカリキュラム」も、その教室に導入された「1人1台のタブレット端末」や「便利な学習アプリ」も、それ自体はあくまで子どもたちの学びを支えるための手段に過ぎません。
第3章:「それって、あなたが本当に知りたいこと?」〜問いを磨く魔法の言葉〜
激しく変化する時代の中で、目の前の子どもたちの実態も多様化しています。
彼ら一人ひとりの「問い」を支え、「個別最適な学び」の環境を整えたり「指導の個別化」を図ったりするためには、最新のツールを導入するだけでは不十分です。
私たち大人は、教育の原理原則を踏まえたうえで、「どうすればもっと目の前の子どもの可能性を引き出せるか?」と問いを持ち、常に自らの指導観をアップデートしながら試行錯誤し続ける必要があります。
ただ、ここで忘れてはならない大切なことがあります。それは、「問い」を持つということは、単に環境の変化に適応するための義務や、指導を改善する手段ではないということです。
「問い」とは本来、今目の前にある課題を解決し、未来を切り拓く起点になると同時に、人間としての原点である「ワクワク」や「知的好奇心」そのものです。
子どもたちの学びの姿は、教師をはじめとする大人の学びの姿の「相似形」です。
大人が時代の変化を前向きに受け止め、自らの内に湧き上がる知的好奇心やワクワクを大切にしながら学び続ける姿勢を持つことで、初めて子どもたちの心に火をつけることができるのです。
第4章:大人が「教える役割」から一歩退き、一人の探究者になる
私自身、現場で「AI」や「デジタルツール」を導入した当初は、それをどう「正しく使わせるか」を追求し、葛藤しました。
しかし、「これを使って、どうすれば私たちの学びはもっと自由になるだろうか?」と、私自身が知的好奇心あふれる一人の探究者として問いを持ち、生徒と一緒に「ん〜っ」と悩み、学び始めたとき、教室の空気が劇的に変わったのです。
大人が「正解を与える側」からそっと降りて、子どもたちと共に「問い」から学び始める。
ワクワクしながら主体的に学び続ける大人の姿こそが、子どもたちにとっての最大のロールモデルになります。
4つの領域を越境して私が行き着いた答えは、こんなにもシンプルで、人間くさいものでした。
第5章:家庭でも、チームでも。共に未来を切り拓く「とんかつ」のスタンス
この「正解を与える側から降りて、共に学ぶ」という伴走者のスタンスを、
私は浦西中学校時代から「とんかつ」という合言葉で大切に実践してきました。
そしてこの「とんかつ」は、家庭で自分の子どもに向き合うときだけでなく、大人同士がチームとしてワークする際にも、私がとても大切にしているスタンスなのです。
「と」= 問いかける(相手が考えるのを待つ)
相手から質問されたり、壁にぶつかったりしたとき、つい自分の知識や正解を教え込みたくなりますが、そこをぐっと堪えて一呼吸置きます。「あなたはどう思う?」「どうしてそう思ったの?」と、相手の知的好奇心を刺激し、思考を促す「問い」を投げかけることを心がけています。
「ん」= ん〜っと一緒に悩む(対等な目線に立つ)
相手が答えに窮したとき、自分のペースで急かすのではなく、相手のペースに寄り添い、同じ目線に立って「ん〜っ、難しいね」「どうやって解決しようか」と一緒に悩む姿勢を見せます。この共感と寄り添いが、チームや家庭に安心感を与えてくれます。
「か」= 考える(試行錯誤を見守る)
相手が自分なりの答えを導き出すまでには、時間がかかります。時には失敗して転ぶこともあります。
それでも、先回りして障害物を取り除くのではなく、その過程を尊重し、相手が自ら「考える」時間を信じてじっくりと見守ります。
「つ」= つなぐ(広い世界へ視点を広げる)
相手が考えたことや見つけたアイデアに対して、
「それって、あの事例と似ているね」「〇〇さんに相談してみたらもっと面白くなるかも」と、
家庭やチームの中だけでなく、広い社会へと視点を広げ、新たなワクワクへとつなぐ手助けをします。
家庭で子どもと向き合うときも、職場でチームの仲間とワークするときも、
相手の主体性を引き出しながら、私自身も一つの「問い」に向き合う探究者として、共に面白がりながら学び続けること。
この「と・ん・か・つ」の姿勢を大切に自分自身や他者と向き合い続けることが、めぐりめぐって、私自身の中に「未来を切り拓く力(チェンジメーカーとしての力)」を育んでくれるのだと信じています。
結び:学びのエコシステムを創る、私たちの秘密基地
私がいま沖縄に立ち上げた【「問い」の会社】Inquirers Base Okinawaは、まさにこの「本当に必要なもの」を満たすための場所です。
学校、行政、研究、テクノロジー。
それぞれの強みを繋ぎ合わせながら、まずは私たち大人が率先して「問い」という名の知的好奇心を起点に学び続け、ワクワクしながら挑戦していくエコシステムを創りたいのです。
皆さんの今の環境に、自らの学びを駆動させる「問い」はありますか?
「最近、仕組みやツールに振り回されているかもしれない」「ワクワクを忘れているかもしれない」と感じたら、ぜひ一度立ち止まって、今日から身近な仲間やご家族と「ん〜っ」と一緒に悩むところから始めてみませんか?
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
皆さんと共に、未知なる道を面白がりながら歩んでいける日を楽しみに、また次回のコラムでお会いしましょう!
「問いが、未来を動かす」。
